平成19年、私は前立腺がんの再発を受けて、25年の開業医生活に幕を下ろしました。開業医を続けるのは患者さんたちに迷惑がかかると考えたからです。そして、待っていたかのように板橋区の特養常勤医の話しが舞い込みました。
 医者の私に「がん再発」は重くのしかかりました。「死」を意識しました。とりあえず、体の中のがん細胞と共存しよう。
動けなくなるまで医者を続けようと考えました。「生き方」ではなく「終わり方」を思い巡らしました。
 その特養には認知症の方が90名ほど(定員100名)、アルツハイマー型より脳血管性認知症(脳卒中後遺症)の方が多く在籍していました。その施設で私は看取り介護(ターミナルケア)に取り組みました。静かに人生を終わるお手伝いをしたのです。もちろん骨折や肺炎などの急性の疾患は病院に入院していただきましたが、いたずらな延命処置をしないで医師・看護師・介護士で協力して「看取る」胃ろうも原則しない。点滴も延命処置と考える。私たちが目指したのは「穏やかな終末」でした。
 縁あって老人ホームや療養型病院にも勤めましたが、私の端的な感想は、収益をあげるための徒な診療(過剰診療)でした。
意識のない患者さんを死なないように管理する。確かに「死」は医者にとっては敗北を意味します。しかし私は考えました。
「人間はいつか必ず死を迎える」「尊厳死」「自然死」は望めないのか・・・?

 「自宅介護」がさかんに叫ばれますが、現実的には相当難しい。

 この春から、所沢ベテラン館に勤め始めました。これは私の「終活」と位置付けています。「寿命が尽きるまで勤めよう」そう考えています。ベテラン館では「看取り介護」に取り組んでいます。
 看護師・介護士は24時間体制で、胃ろうはもちろん、急性期の点滴やインシュリン注射にも対応しています。「病院」と「自宅介護」の機能を併せ持つ施設と言えます。考えによっては現代に必要とされるシステムです。
 私は正直なところ、いつまで仕事ができるか分かりません。しかし終活として力を注ぎたい。そう決意しています。
 皆さんのお力を貸していただきたい。よろしくお願い申し上げます。
              特別養護老人ホーム ベテラン館  医師一医学博士   福田一男